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東京高等裁判所 平成2年(ネ)3118号 判決

控訴人(被告・反訴原告) モンロー株式会社

被控訴人(原告・反訴被告) 日本ヘルスメイト株式会社

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は、控訴人の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人の本訴請求を棄却する。

3  被控訴人は、別紙目録記載の被控訴人の各営業所における営業上の施設又は活動に「ジェットスリムクリニック」の表示を使用してはならない。

4  被控訴人は、右各営業所の看板、広告物その他の営業表示物件から「ジェットスリムクリニック」の表示を抹消せよ。

5  訴訟費用は、第一審、二審とも本訴、反訴を通じて全部被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文と同旨

第二当事者の主張

当事者双方の主張は、次のとおり付加、訂正等をするほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一  原判決七枚目裏六行目(知裁集五七一頁一四行目)の次に、

「仮に「ジェットスリム浜松駅南クリニック」の表示をその営業所において使用しているのが、控訴人自身ではなく、加盟店であるとしても、それは、控訴人が加盟店契約に基づき加盟店をして使用させているものであるから、控訴人もその表示の使用につき差止請求の相手方となりうるものである。」を加える。

二  原判決八枚目裏一一行目(同上、五七二頁一〇行目)の「「ジェットスリム浜松駅南クリニック」及び」を削り、同九枚目表二行目(同上、五七二頁一一行目)の次に、

「「ジェットスリム浜松駅南クリニック」の表示は加盟店が使用しているものであり、控訴人が使用しているものではない。」を加える。

三  原判決一〇枚目裏六行目(同上、五七三頁一〇行目)の次に、

「このことは、被控訴人は、その各店舗の開店にあたって、営業に必要な会員手帳、日計表等を控訴人から買い取り、これを使用していること、広告用のチラシも控訴人から買い取っていること、被控訴人代表者鈴木正久は、昭和五九年九月に開催された控訴人の中部地区加盟店オーナー会議に出席し、加盟店は本部である控訴人にロイヤルティを支払うべき旨の発言をしていることに照らしても明らかである。」を加える。

四  原判決一三枚目表六行目(同上、五七四頁一六行目)の次に、

「3 仮に、被控訴人が控訴人との間の加盟店契約に基づき「ジェットスリムクリニック」の表示を使用しているのではないとしても、控訴人の静岡県内における右表示の使用行為は、不正競争防止法二条一項四号の規定に該当するから、被控訴人は控訴人に対し右表示の使用差止を請求することはできない。すなわち、控訴人は、右表示を使用して、梅田店、千種店を開店した後、被控訴人に対して静岡県内において右表示の使用を許諾し、更にその後、計画どおり、次々と全国展開を目指してフランチャイズ制を採用して、直営店及び加盟店を開設し、それに伴い巨額の費用を投じて、全国的にテレビ、週刊誌、新聞等に著名なタレントを用いた広告宣伝を行い、全国的な周知性の取得に努めたのであるから、控訴人の右表示の使用が、被控訴人が使用する静岡県内において現実になされていない場合であっても、その後、控訴人が同地域において右表示を使用する場合には、不正競争防止二条一項四号による先使用の抗弁が認められるべきである。

4 仮に先使用の抗弁が認められないとしても、被控訴人の使用する右表示が静岡県内において周知性を取得したのは、控訴人の右広告宣伝の効果が大きく、静岡県内において痩身美容に関心のある女性は、右表示は、控訴人が全国的に実施するフランチャイズ制によるグループ全体の営業表示と認識し、被控訴人の経営する各店舗を控訴人の加盟店と思って利用していることは十分に考えられるところであるから、被控訴人に静岡県内において右表示を排他的に使用することができる権利を認めるべきではなく、被控訴人の本件差止請求は、信義則又は公平の原則に反し、権利の濫用であり、許されない。」を加える。

五  原判決一三枚目裏六行目(同上、五七五頁三行目)の「事実」の次に、「のうち、被控訴人が、その各店舗の開店にあたって、営業に必要な会員手帳、日計表等を控訴人から買い取り、これを使用していること、広告用のチラシも控訴人から買い取っていること、被控訴人代表者鈴木が、昭和五九年九月に開催された控訴人の中部地区加盟店オーナー会議に出席し、ロイヤルティを支払うべき旨の発言をしたことは認め、その余」を加える。

六  原判決一三枚目裏九行目(同上、五七五頁五行目)の次に、

「3 抗弁3は争う。控訴人は、静岡県内で「ジェットスリムクリニック」という表示を全く使用していなかったものであり、先使用の抗弁は認められない。

4 抗弁4は争う。」を加える。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一  当裁判所も、被控訴人の本訴請求は理由があり、控訴人の反訴請求は理由がないと考えるが、その理由は、次のとおり付加、訂正等をするほか、原判決の理由と同一であるから、これを引用する。

1  原判決一九枚目表七行目(同上、五七八頁七行目)に「被告」とあるのを「前者の加盟店」と、同八行目(同上、五七八頁七行目)に「及び」とあるのを「の、被告が」に改める。

2  原判決一九枚目裏二行目(同上、五七八頁一〇行目)に「被告が」とあるのを「右各店舗において」と改め、同一一行目(同上、五七八頁一四行目)の「被告が」の次に、「直営店及び加盟店により」を加える。

3  原判決二〇枚目裏八行目(同上、五七九頁三行目)の次に、

「被控訴人が、その各店舗の開店にあたって、営業に必要な会員手帳、日計表等を控訴人から買い取り、これを使用していること、広告用のチラシも控訴人から買い取っていること、被控訴人代表者鈴木が、昭和五九年九月に開催された控訴人の中部地区加盟店オーナー会議に出席し、ロイヤルティを支払うべき旨の発言をしたことは当事者間に争いはなく、控訴人は、このことを理由に、控訴人と被控訴人との間に控訴人主張の加盟店契約が成立した旨主張する。

しかし、会員手帳等及びチラシの買取りの点は、原審における証人山中清一の証言及び被控訴人代表者本人尋問の結果によれば、被控訴人が痩身美容器「ジェットスリマー」を控訴人から買受けた際被控訴人の営業上の便宜から会員手帳等やチラシを併せて買取ったものと推認され、しかも被控訴人が控訴人からチラシを買い取ったのは開店後の短期間であって、その後は被控訴人の方で独自に広告用のチラシ等を作成したが、これに対して控訴人は何ら異議を申し立てることなく、その後の被控訴人店舗の開店に際しても被控訴人に営業に必要なジェットスリマー等の機械を供給していることが認められるのであり、被控訴人が加盟店契約に基づくチラシの買取義務を負い、この義務を履行したものとは直ちに認められない。また、被控訴人代表者鈴木正久が中部地区オーナー会議に出席したとの点についてみるに、原審における被控訴人代表者本人尋問の結果及び当審における証人北村正廣の証言によれば、右会議は、中部地区の加盟店のオーナーの間に控訴人から実質的にロイヤルティ徴収の手段とするために買取義務を課せられているチラシの値段が高すぎるとの不満が高まったため開催されたものであるところ、被控訴人が店舗を展開している静岡県は中部地区に属しないものであることが認められるのであるが、そのような会議に被控訴人代表者鈴木正久が出席して、加盟店はロイヤルティを支払うべきとの控訴人を擁護する発言をしたことは、被控訴人が加盟店の一員であることの根拠になるというより、控訴人から最初に高価なジェットスリマー等の機械をリースして静岡県において店舗展開したことから、控訴人のパートナー的な気持ちでいたとの原審における被控訴人代表者の供述を自然なものとして受け取ることができるのである。

そして、原審における控訴人、被控訴人各代表者本人尋問の結果及び当審における証人北村正廣の証言によれば、控訴人が最初に加盟店契約につき契約書を作成したのは、昭和五九年二月、名古屋のジェットスリム新瑞クリニックとの間においてであるが、被控訴人はその後も控訴人からジェットスリマー等の機械をリースしてジェットスリム藤枝クリニック、ジェットスリム富士クリニックと店舗を展開していったにもかかわらず、加盟店契約書の作成は要求されていないことが認められるのである。

以上のことからすれば、控訴人代表者西田隆司の内心の意思としては、被控訴人の店舗を自己の加盟店と考えていたということはありうるが、控訴人と被控訴人との間に控訴人主張の加盟店契約が締結されたものとまでは認めることができない。」を加える。

4  原判決二〇枚目裏一〇行目(同上、五七九頁四行目)の次に、

「6 次に、抗弁3について判断するに、そもそも、不正競争防止法二条一項四号の規定する先使用の抗弁は、現実に、ある者が、ある地域において、不正競争の目的なくしてある営業の表示を使用している場合には、その後、その地域において他の者の使用するそれと紛らわしい営業の表示が周知となっても、当該ある者の営業の表示の使用が認められ、当該他の者から営業の表示の使用の差止めを請求されることはないとするものであり、他の者の営業の表示が周知性を取得する以前に、その地域においてその営業の表示を使用していたことが必要であるところ、控訴人は、被控訴人の使用により「ジェットスリムクリニック」の表示が静岡県内において周知となった際、同地域においてその表示を使用していなかったものであるから、控訴人が先使用の抗弁を主張することができないことは明らかである。

控訴人は、控訴人が被控訴人に対し、「ジェットスリムクリニック」の表示を使用することを許諾し、また、フランチャイズ制による全国展開によりその表示の全国的な周知性の取得に努めたので、控訴人の右表示の使用が、被控訴人が使用する静岡県内において現実にされていない場合であっても、その後、控訴人が同地域において右表示を使用する場合には、先使用の抗弁が認められるべきであると主張するが、原審における証人山中清一の証言によれば、被控訴人の「ジェットスリムクリニック」の使用が控訴人からの申し入れに基づくことは認められるものの、控訴人のいう許諾に基づくことを認めるに足る証拠はないのみならず、その主張自体、控訴人の独自の見解に基づくものであり、採用の限りではない。

よって、抗弁3は理由がない。

7 次に抗弁4につき判断するに、前認定のとおり、静岡県内において被控訴人自身、自らの費用をもって広告宣伝に努め、その表示の周知性を獲得したものであり、仮に、控訴人が自己の利益のためにした全国的な広告宣伝の効果が寄与していることがあるとしても、被控訴人が、控訴人が静岡県内において直営店又はフランチャイズ制による加盟店により被控訴人の営業の表示と同一の表示を使用することによる取引上に混乱その他の不利益を甘受しなければならない理由はなく、それを排除するため控訴人に対してその表示の使用の差止めを請求することは、正当な権利行使であり、控訴人の権利の濫用の抗弁は理由がない。」を加える。

5  原判決二〇枚目裏一一行目(同上、五七九頁五行目)に「6」とあるのを「8」と改める。

6  原判決二一枚目表二行目(同上、五七九頁六行目)の次に、

「これに対し、控訴人は、浜松駅南店において「ジェットスリムクリニック」の表示を使用しているのは控訴人ではなく加盟店であるから、控訴人に対しその表示の使用の差止請求をすることはできない旨主張する。

しかし、前認定のとおり、控訴人は、「ジェットスリムクリニック」との表示を使用して直営店を拡大していくかたわら、痩身美容店のフランチャイズの全国展開を計っていったものであるが、当審における証人北村正廣の証言により成立を認めることができる乙第二五号証によれば、控訴人は、その過程の中で、昭和六二年九月二一日、訴外金田濶との間で、加盟店(金田)は加盟に際し、本部(控訴人)に対し、加盟登録料一五〇万円、ノウハウ料一〇〇万円及び教育料五〇万円を支払うとともに毎月一〇万円のロイヤルティを支払い、本部は、加盟店に対し営業に必要な機械をリースにより供給するとともに加盟店が本部の指示するところに従い「ジェットスリムクリニック」の名称や商標マークを使用することを許諾し、加盟店は営業を行う場合は本部の指定する商標マーク、ロゴ等営業の象徴となるべきものを使用しなければならず、広告にあたっても本部の作成するチラシ等を使用しなければならないことを内容とする加盟店契約を締結し、加盟店においてその加盟店契約に基づいて「ジェットスリム浜松駅南クリニック」との表示を使用していることを認めることができる。

右認定事実によれば、控訴人は、加盟店契約に基づき加盟店を傘下に収め、自己の直営店とともに一つの統一的な営業組織体を形成してこれを統率し、その営業の表示として直営店及び傘下の加盟店において統一的に「ジェットスリムクリニック」の表示を使用しているものであり、加盟店の店舗の看板等に掲げられ、又はその広告宣伝の媒体に掲げられる右表示は、その加盟店を標章するのみならず、控訴人が統率する右営業組織体をも標章するものであり、そのような機能を果たさせるために控訴人が加盟店に右表示の使用を義務づけているものであるから、その加盟店のみならず本部たる控訴人自身もこれを使用しているものと認めることができるものである。したがって、本件の場合、被控訴人は、控訴人に対し、浜松駅南店における「ジェットスリム浜松駅南クリニック」の表示の使用の差止め及び営業物件からの右表示の抹消を請求することができるというべきである(その被控訴人勝訴の判決は加盟店に効力を及ぼすものではないが、控訴人自身も浜松駅南店における「ジェットスリム浜松駅南クリニック」の表示を使用しているものと認められる以上、その請求に利益がないとはいえない。)。

よって、控訴人の主張は理由がない。」を加える。

二  以上によれば、被控訴人の控訴人に対する浜松駅南店及び静岡駅前店における「ジェットスリムクリニック」との表示の使用の差止めと右各店舗における看板、広告物その他の営業表示物件からその表示の抹消を求める被控訴人の請求を認容し、控訴人の反訴請求を棄却した原判決は相当であり、控訴は理由がないからこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を各適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 竹田稔 春日民雄 佐藤修市)

目録

名称               所在地

一 ジェットスリム静岡クリニック 静岡市追手町二番七号

二 ジェットスリム浜松クリニック 浜松市田町二二七-一六地産ビル七階

三 ジェットスリム沼津クリニック 沼津市大手町五-四-一丸天ビル三階

四 ジェットスリム藤枝クリニック 藤枝市駅前一-二-二プラザビル二階

五 ジェットスリム富士クリニック 富士市本町一九-七中駿ビル三階

六 ジェットスリム掛川クリニック 掛川市南西郷九一-二駅前ビル

主文

一 被告は、その静岡営業所ならびに浜松営業所における営業上の施設又は活動に「ジェットスリムクリニック」の表示を使用してはならない。

二 被告は、右各営業所の看板・広告物その他の営業表示物件から「ジェットスリムクリニック」の表示を抹消せよ。

三 被告の請求を棄却する。

四 訴訟費用は、本訴反訴を通じて、全部被告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 原告

主文同旨

二 被告

1 原告の請求を棄却する。

2 原告は、左記の原告営業所における営業上の施設又は活動に「ジェットスリムクリニック」の表示を使用してはならない。

ジェットスリム静岡クリニック

ジェットスリム浜松クリニック

ジェットスリム沼津クリニック

ジェットスリム藤枝クリニック

ジェットスリム富士クリニック

ジェットスリム掛川クリニック

3 原告は、右各営業所の看板・広告物その他の営業表示物件から「ジェットスリムクリニック」の表示を抹消せよ。

4 訴訟費用は、本訴反訴とも、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一 本訴請求の原因

1 原告は、昭和五三年八月一八日、健康トレーニング施設及び全身美容サロンの経営等を目的として設立された資本金五〇〇万円の株式会社である。

そして、原告は、昭和五八年七月一二日、静岡市追手町四五番地(六〇年七月に追手町二番七号に移転)において、「ジェットスリム静岡クリニック」の名称で営業所を開設し、痩身美容業を開始した。右美容業は、女性を対象として痩身美容機「ジェットスリマー」を使用して、温度四〇度、毎分五〇〇〇リットルの熱風をホースにより脂肪蓄積部分に噴射し、脂肪を分解燃焼させる等により痩身美容の施術を行うというものである。

そして、原告は、左記のとおり、順次静岡県内の各市に営業所を開設した。

開設年月日(昭和)名称

五八・一〇・二五 ジェットスリム浜松クリニック

五八・一一・ 四 ジェットスリム沼津クリニック

五九・ 九・ 五 ジェットスリム藤枝クリニック

五九・ 九・一七 ジェットスリム富士クリニック

六二・ 七・一三 ジェットスリム掛川クリニック

2 また、原告は、昭和五九年九月一九日、系列関連会社として、訴外ジェットスリムクリニック株式会社(目的は美容に関する一切の業務、資本金三〇〇万円)を設立し、その後同社は、アートビューティクリニック株式会社(以下「アートビューティ」という。)と商号変更して現在に至っている。

原告は、静岡県外においても、「アートビューティ○○クリニック」の名称でジェットスリムクリニックと同一内容の痩身美容業を行っており、原告及びアートビューティによる年間合計売上高は、昭和六一年約一〇億八三〇〇万円、昭和六二年約一二億四二〇〇万円、昭和六三年(六月末現在)約八億六四〇〇万円である。

3 「ジェットスリム○○クリニック」の名称は、「ジェットスリマー」と名付けられた美容器を利用して施術を行うことに由来し、原告は、これに営業所名を付加して使用しているものである。

4(一) 原告は、静岡県内で、静岡新聞・中日ショッパー等への広告掲載、テレビ静岡・静岡けんみんテレビ・静岡放送・静岡第一テレビの各スポットCM、新聞チラシ折込み等で広告・宣伝を積極的に行った。その宣伝広告費の支出状況は、左記のとおりである。

昭和五八年七月~五九年七月   三九六三万〇七〇〇円

五九年八月~六〇年九月   七〇三七万八七〇〇円

六〇年一〇月~六一年一一月 七九一九万九〇〇〇円

六一年一二月~六三年一月  九二五九万五〇〇〇円

六三年二月~同年九月 五六三一万円

合計         三億三八一一万三四〇〇円

(二) 右広告・宣伝及び営業努力により、原告の経営するジェットスリムクリニック各店においては各開設以来昭和六三年九月末現在に至るまで、左記の実績をあげている。

売上金額     顧客数(実数)

静岡   二億七三〇四万一〇八〇円 二四九一名

浜松   一億八三四九万三二八〇円 一五〇〇名

沼津   二億六八一八万〇七一五円 一五七三名

藤枝   二億三八二九万二二〇〇円  九一三名

富士   一億七一九五万二七七〇円 一〇一九名

掛川     九二一八万四二八〇円  一八二名

右合計 一二億二七一四万四三二五円 七六七八名

(三) 「ジェットスリム」は、原告の登録商標にもなっており、登録内容は次のとおりである。

登録番号 第一九五九一四七号

出願 昭和五九年一〇月一五日

登録 昭和六二年六月一六日

指定商品 治療用機械器具

登録商標 ジェットスリム

(四) 以上から、「ジェットスリムクリニック」なる名称は、静岡県内においておそくとも昭和六二年九月以前には、原告の営業表示として広く認識されていた。

5 被告は、昭和五八年六月ころ、名古屋市千種区において、「ジェットスリム千種クリニック」の名称で、痩身美容を業とする営業所を開設した。原告及び被告は、ほぼ同時期に同一営業を同一名称で行うことになったため、営業開始にあたり、静岡県内では原告が「ジェットスリム」の名称を使用し、その他地域においては被告が右名称を使用するとの合意がなされた。

被告は、「ジェットスリムクリニック」の名称により約五〇店舗の直営又は加盟店を展開しているが、本件の紛争が発生するまでは静岡県内には、営業所・加盟店を出店していなかった。

6(一) ところが、被告は、昭和六二年九月二一日、浜松市砂山町三二八番地八号Mビル四階において、「ジェットスリム浜松駅南クリニック」の名称で、ついで昭和六三年六月二四日、静岡市呉服町二丁目九番六号タツミビル三階において、「ジェットスリム静岡駅前クリニック」の名称で各々痩身美容業を開始した。

(二) 被告の浜松・静岡各営業所の右各名称は、原告の本県内における営業表示「ジェットスリム○○クリニック」と、地名該当部分が相違するのみで、主要構成部分である「ジェットスリムクリニック」は全く同一であり、営業表示として同一もしくは類似するものであることが明白である。

(三) 被告は、右「ジェットスリム浜松駅南クリニック」及び「ジェットスリム静岡駅前クリニック」の各表示を各営業所の標章として用い、店頭に看板を掲げ、新聞折込みチラシに右標章を印刷し、これを配布するなどして使用し、現に顧客等の第三者をして、静岡県内において広く認識された原告の営業上の施設又は活動と混同誤認せしめて原告の営業上の利益を害している。

7 よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法一条一項二号の規定による差止請求権に基づき、被告の静岡・浜松各営業所における営業上の施設又は活動に「ジェットスリムクリニック」の表示を使用してはならないことを求めるとともに、被告の右各営業所の看板・広告物その他の営業表示物件から「ジェットスリムクリニック」の表示を抹消することを求める。

二 本訴請求の原因に対する認否

1 本訴請求の原因1の事実は認める。

2 同2の事実は不知。

3 同3の事実は否認する。

4 同4の事実は不知。

5 同5の事実のうち、原告及び被告がほぼ同時期に同一営業を同一名称で行うことになったため、営業開始にあたり静岡県内では原告が「ジェットスリム」の名称を使用しその他地域においては被告が右名称を使用するとの合意がなされたことは否認し、その余は認める。

6(一) 同6の(一)の事実のうち、ジェットスリム浜松駅南クリニックが昭和六二年九月に被告の加盟店として開店したこと、ジェットスリム静岡駅前クリニックが昭和六三年六月に被告の加盟店として開店し同年一二月一日に被告がジェットスリム静岡駅前クリニックの営業を譲受け、以後直営店として経営していることは認めるが、その余は否認する。

(二) 同(二)の事実は否認する。

(三) 同(三)の事実のうち、被告が「ジェットスリム浜松駅南クリニック」及び「ジェットスリム静岡駅前クリニック」の表示を使用していることは認め、その余は否認する。

7 同7の主張は争う。

三 抗弁

1(一) 被告は、昭和四五年一〇月二九日、資本金五〇〇万円、美容材料の卸売・美容業等を目的として設立し、昭和五三年一一月二二日には、資本金を二〇〇〇万円に増資した株式会社である。

被告は、昭和五八年初めころから、モンロープロポーションレディスの名で美容教室を開設し、美容痩身業を開始した。

(二) 被告は、その後、スーピロデインという機械を改良して温度約四五度、毎分五〇〇〇リットルの熱風をホースから噴出させる機械を開発し、これを「ジェットスリマー」と名付けた。また、被告は、このジェットスリマーとコンセランという空気圧を利用して伸縮できるようになっている衣服を併用して美容痩身を行うシステムを考案し、このシステムを「ジェットスリムシステム」と名付けた。被告は、昭和五八年五月三一日に、「ジェットスリマー」につき、一一類(指定商品・電気機械器具等)についての商標登録を出願し、昭和六〇年九月二七日には右登録を受けた。また、被告は、昭和五八年一〇月七日に、「ジェットスリムクリニック」につき、二六類(指定商品・雑誌新聞)についての商標登録を出願し、昭和六〇年八月一三日に登録を受けている。

(三) 被告は、昭和五八年五月二〇日に大阪市北区で「ジェットスリム梅田クリニック」の名で、同年六月二九日に「ジェットスリム千種クリニック」の名で、それぞれ美容痩身の店舗を開店し、その後はフランチャイズシステムにより加盟店を募集することを計画した。

(四) そして、被告は、原告との間で、昭和五八年七月初めころ、原告が被告の加盟店になる旨の加盟店契約を締結し、同時に原告が静岡市において「ジェットスリム静岡クリニック」という営業表示を用いて美容痩身業を行うことを許諾した。

その後も被告は、原告が浜松・沼津・福岡・藤枝・富士と店舗を出す際に、原告との間で静岡の場合と同様の加盟店契約を結んだ。

(五) 昭和五九年一二月に、被告と各加盟店との間には、各加盟店が一店舗につき一か月一〇万円のロイヤリティを払う旨の合意がなされたが、原告は、右ロイヤリティを払うことを拒絶した。また、原告が被告との加盟店契約により取得した美容痩身業のノウハウを無断転用して、アートビューティの名でフランチャイズシステムをとっていることが被告に判明したため、被告と原告は話合いの上、昭和六〇年三月二五日に、左記条件のもとに加盟店契約を合意解約した。

(1)  原告は、各クリニック店につき加盟店から脱退する。

(2)  原告は、「ジェットスリム○○クリニック」という営業表示の使用を停止する。

(六) したがって、原告には「ジェットスリムクリニック」の営業表示を使用する権利がない。

2(一) 被告は、関東、東海、中部、北陸、近畿、中国、四国、九州の各地方に、直営店三一店、加盟店四一店を持っている。

(二) 被告は、フランチャイズ制採用後、当初チラシによる宣伝の他、新聞・雑誌による宣伝、電車の車内広告などを行っていた。被告は、昭和五九年八月からは、関西地区において読売テレビで広告を開始し、昭和六〇年二月には女優の佐藤友美を、昭和六一年八月には女優の多岐川裕美を起用したコマーシャルをそれぞれ作成し、昭和六〇年三月から関西地区で関西テレビ、中部地区において東海テレビ、同年九月から関東地区においてテレビ東京、昭和六一年八月から関西地区において朝日テレビ、読売テレビ、毎日テレビ、中部地区において愛知テレビ、名古屋テレビ、関東地区においてテレビ朝日で右コマーシャルを放映した。また、昭和六〇年三月からは前記タレントの登場する広告をヤングレディ、クロワッサン、週刊女性、ノンノン、プレゼントマガジン等の週刊誌に掲載した。

被告のジェットスリムシステムによる直営店、加盟店のための共同宣伝費は、昭和五八年が二三九五万二二四〇円、五九年が一億二八六二万二〇一一円、六〇年が四億三一〇〇万六二七五円、六一年が六億二一〇五万二一八二円、六二年が六億三七四四万二五円、六三年が六億八九六万九八九四円、合計二四億五一〇四万二六二七円である。

(三) 被告の直営店における決算期(毎年九月末日)毎の売上高は、昭和五八年度が五億六五三〇万三八五一円、五九年度が一〇億五九七六万八一一五円、六〇年度が一四億六一〇三万七七六三円、六一年度が一九億九二七九万六六三一円、六二年度が二七億一六一一万八〇二九円である。

(四) このように、被告の「ジェットスリムクリニック」の名称は、宣伝・広告を通じて全国に知れ渡っており、被告の営業も全国に渡って大規模なものである。

被告の「ジェットスリムクリニック」の名称は、全国に周知なものとして原告の同名称の周知性を凌駕するものであり、これによって原告の「ジェットスリムクリニック」の名称の周知性は著しく減殺されるというべきである。

四 抗弁に対する認否

1(一) 抗弁1の(一)の事実は不知。

(二) 同(二)の事実のうち、被告がスーピロデインという機械を改良し美容痩身システムを考案したこと、被告が右機械をジェットスリマーと名付けたことは否認し、美容痩身システムの内容については認め、その余は不知。

(三) 同(三)の事実のうち、「ジェットスリム梅田クリニック」及び「ジェットスリム千種クリニック」の各店舗の開店は認め、その余は不知。

(四) 同(四)の事実は否認する。

(五) 同(五)の事実は否認する。

2 抗弁2の(一)ないし(三)の事実は不知。同(四)の事実は否認し、その主張は争う。

五 反訴請求の原因

1 前記のとおり、原告は、被告との前記加盟店契約を合意により解約する際、被告に対し、原告が「ジェットスリム○○クリニック」という営業表示の使用を停止する旨約した。

2 よって、被告は、原告と被告間の右特約に基づき、原告の営業上の施設又は活動に「ジェットスリムクリニック」の表示を使用することの差止めを求めるとともに、原告の営業所の看板・広告物その他の営業表示物件から「ジェットスリムクリニック」の表示を抹消することを求める。

六 反訴請求の原因に対する認否

1 反訴請求原因1の事実は否認する。

2 同2の主張は争う。

第三証拠関係〈省略〉

理由

一 本訴請求に対する判断

1 原告が昭和五三年八月一八日健康トレーニング施設及び全身美容サロンの経営等を目的として設立された資本金五〇〇万円の株式会社であること、原告が昭和五八年七月一二日静岡市追手町四五番地(六〇年七月に追手町二番七号に移転)において「ジェットスリム静岡クリニック」の名称で営業所を開設し痩身美容業を開始したこと、右美容業は女性を対象として痩身美容器「ジェットスリマー」を使用して温度四〇度、毎分五〇〇〇リットルの熱風をホースにより脂肪蓄積部分に噴射し脂肪を分解燃焼させる等により痩身美容の施術を行うものであること、原告が昭和五八年一〇月二五日、同年一一月四日、五九年九月五日、五九年九月一七日、六二年七月一三日に、それぞれ静岡県内の浜松市、沼津市、藤枝市、富士市、掛川市に、順次「ジェットスリム浜松クリニック」、「ジェットスリム沼津クリニック」、「ジェットスリム藤枝クリニック」、「ジェットスリム富士クリニック」、「ジェットスリム掛川クリニック」を開設したことについては当事者間に争いはない。

2(一) 成立に争いのない甲第五号証の一ないし三、乙第一及び第二号証、原告代表者本人尋問の結果によって成立の認められる甲第四号証の一ないし一四、同第六号証の一及び二、同第一三ないし一六号証、被告代表者本人尋問の結果によって成立の認められる乙第二〇号証、同第二一号証の一ないし三、同第二二、第二三、第二六ないし第二八号証並びに原告代表者本人尋問及び被告代表者本人尋問の各結果によれば、以下の事実が認められる。

(1)  原告は、「ジェットスリム」の商標の登録(指定商品・治療用機械器具)を、昭和五九年一〇月一五日に出願し、昭和六二年六月一六日に登録の許可がなされた(登録番号・第一九五九一四七号)。

(2)  原告は、静岡県内で、静岡新聞、中日ショッパー等への広告掲載、テレビ静岡・静岡けんみんテレビ・静岡放送・静岡第一テレビの各スポットCM、新聞チラシ折込み等で広告・宣伝等を積極的に行い、その宣伝・広告費は、昭和五八年七月の営業開始以来六三年九月までで約三億三八〇〇万円にのぼっている。

(3)  また、「ジェットスリム静岡クリニック」開設以来の原告の静岡、浜松、沼津、藤枝、富士、掛川各クリニックの昭和六三年九月末までの売上合計は約一二億二七〇〇万円に及んでおり、その顧客数は実数で七六七八名にのぼっている。

(4)  一方、被告は、昭和五八年五月二〇日に大阪市北区で「ジェットスリム梅田クリニック」を開設し、その後直営店の開設、加盟店契約等を行い、平成二年三月現在では直営店を四〇店舗、加盟店を五五店舗有している。

(5)  被告は、昭和五八年五月三一日に、「ジェットスリマー」につき、一一類(指定商品・電気機械器具等)についての商標登録を出願し、昭和六〇年九月二七日には右登録をうけ、昭和五八年一〇月七日に、「ジェットスリムクリニック」につき、二六類(指定商品・雑誌新聞)についての商標登録を出願し、昭和六〇年八月一三日に登録を受けている。

(6)  被告は、ジェットスリムクリニックにつき、当初チラシによる宣伝の他、新聞・雑誌による宣伝、電車の車内広告等を行っていた。その後、昭和五九年八月から関西地区でテレビコマーシャルをするようになり、その後は佐藤友美、多岐川裕美などのタレントを起用して、関西地区だけでなく昭和六〇年三月からは中部地区、同年九月から関東地区においてもテレビで宣伝するようになった。その他、昭和六〇年三月からは女性を対象とするヤングレディ、クロワッサン、週刊女性、ノンノン、プレゼントマガジン等の週刊誌にも広告を掲載し、被告のジェットスリムクリニックの直営店・加盟店のための共同宣伝費は昭和五八年から六三年に至るまで合計約二四億五一〇〇万円にのぼっている。

(7)  また、被告のジェットスリムクリニック直営店の売上は、昭和五八年一〇月から昭和六三年九月に至るまで、合計約七七億円に及んでいる。

(二) 以上認定の事実からすれば、原告は、静岡県内で営業活動や宣伝活動を積極的に行い、また、実際相当数の顧客に対し痩身美容を行ってきたというべきであるから、「ジェットスリムクリニック」の名称は、昭和六二年九月以前において、痩身美容を行う原告の営業表示として、静岡県内の美容痩身に関心をよせる女性の間で相当程度に周知となっていたものと推認できる。

これに対し、被告の方も全国に渡り営業活動と宣伝活動を積極的に行い、被告の直営店・加盟店が北海道を除いて全国に展開されていること、被告の宣伝に費やす費用、営業規模等が原告のそれに比べてかなり大きいことなどから、全国的には被告の「ジェットスリムクリニック」の方が原告のそれより著名であると推認されるが、本件では、被告の静岡県内における「ジェットスリムクリニック」の名称使用が問題となっており、その周知性は、静岡県内の、美容痩身に関心のある女性を基準として判断すべきものであるから、この観点からすると、静岡県内においては、「ジェットスリムクリニック」という名称は、痩身美容を行う原告の営業を指すものと一般に受けとめられていると推認される以上、被告の「ジェットスリムクリニック」の全国的な知名度にかかわらず、静岡県内においては、原告の営業表示として周知性は認め、保護されるべきものである。

したがって、原告の「ジェットスリムクリニック」の名称の周知性は認められ、被告の抗弁2には理由がない。

3 被告の加盟店が昭和六二年九月に浜松市砂山町三二八番地八号Mビル四階に「ジェットスリム浜松駅南クリニック」の名称で開店したこと、ついで被告の加盟店が昭和六三年六月に静岡市呉服町二丁目九番六号タツミビル三階に「ジェットスリム静岡駅前クリニック」の名称で痩身美容店を開店し、その後の同年一二月に被告がその営業を譲受け、以後直営店として経営していること、被告が右「ジェットスリム浜松駅南クリニック」及び「ジェットスリム静岡駅前クリニック」の各表示を各営業所の標章として用い、店頭に看板を掲げ、新聞チラシに右標目を印刷してこれを配布するなどして使用していることについては当事者間に争いがない。

4 そして、被告が営業の表示として使用する「ジェットスリム浜松駅南クリニック」、「ジェットスリム静岡駅前クリニック」の各名称が、原告が静岡県内において営業の表示として使用している「ジェットスリム○○クリニック」と、地名該当部分が相違するのみで、主要構成部分である「ジェットスリムクリニック」は同一であるから、原告の右営業表示と被告の右営業表示は類似ないし同一であると解するのが相当であるところ、原告代表者本人尋問の結果及びこれによって成立の認められる甲第九号証によれば、被告が原告の浜松・静岡各営業所の直近で原告と全く同種の痩身美容業を営んでいるため、原告の顧客が原告の新しい支店が開店されたものと軽信して営業内容を問い合わせしたり、原告と誤認して被告の店舗に申込みをするなどのことがあって、原告の営業上の施設又は活動と被告のそれとが現に混同誤認せしめていることが認められるほか、原告と被告の営業場所の近接と営業内容が同一であること等に照らすと、右混同誤認の存在とこれによる原告の営業上の利益を害される虞れがあるものと認めるのが相当である。

5 被告は、昭和五八年七月初めころ、原告との間で加盟店契約を締結したうえ、原告が「ジェットスリム静岡クリニック」という営業表示を用いて美容痩身業を行うことを許諾したが、昭和六〇年三月二五日加盟店契約を合意解約した際原告が右営業表示の使用を停止する旨約したと主張し、被告代表者は、その本人尋問において、原告と被告間において加盟店契約が、昭和五八年六月ころに成立した旨供述しているが、右供述部分は、証人山中清一の証言及び原告代表者本人尋問の結果に照らして、たやすく信用することができず、他に被告主張の右事実を認めるに足りる証拠はない。

したがって、その余の点について判断するまでもなく、被告の抗弁1も採用することができない。

6 以上認定判断したところによれば、不正競争防止法一条一項二号により、被告に対し、「ジェットクリニック」の表示の使用の差止と抹消を求める原告の本訴請求は理由がある。

二 反訴請求に対する判断

1 原告と被告との間において被告主張のような加盟店契約が締結されたと認めることができないことは、本訴に対する判断において認定判断したとおりである。

2 よって、被告の反訴請求は、その余の点について判断するまでもなく理由がない。

三 結論

以上の次第であるから、原告の本訴請求は正当として認容するが、被告の反訴請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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